北海道の家づくりデータベース
旭川エリア版(上川・留萌・宗谷)
2026年(令和8年)4月7日(火曜日)

(一社)北海道ビルダーズ協会大工育成委員会は、2022年度住宅市場整備推進等事業を活用し、「大工さん育成ガイドブック」を発行した。地域の工務店経営者が新人大工を雇用し、育成するにはどうしたらいいかを分かりやすくまとめている。同委員会は大工の担い手不足に歯止めをかけるため、若手大工の技術の向上や労働環境の改善など
さまざまな取組みを行なってきた。その集大成ともいえるガイドブックについて、首藤一弘委員長に話を聞いた。
総務省の国勢調査によると2020年の建築大工の人口は29万8000人。20年前の64万7000人から半減した。高齢化も進み、60歳以上の割合は43%に達し、対して30歳未満は7%に過ぎない。 大工が減少した理由を、首藤氏は「バブル経済崩壊に端を発する」と語る。1991年頃からバブルがはじけ、新築住宅の建設が激減。大工を雇用していた工務店は仕事がある時だけ1日いくらという出来高払いで大工を使うようになったという。
ハウスメーカーの下請をしていた工務店も請負の単価を下げられたうえ、材工共から材料支給になり手間賃だけになった。結果、経営が立ち行かなくなり、大工を手放さざるを得なくなった。そうしてかつて社員だった大工たちは、一人親方になった。
「当然、新しい若い大工を育てることを皆が止めてしまった」と首藤氏は指摘する。
ただ、当時の大工たちがまだ若く、一線にいた頃は声をかければ集まるので危機感がなかった。大工の激減が問題になったのは、そうした大工たちの高齢化が進んだここ10年ほどだ。
そこで大工育成を考え始めた工務店も多いが、経営者が世代交代していると難しい面がある。親世代は大工だったり、大工の雇用経験があったりするが、2代目、3代目は大学を出て、企業勤めをした後に実家を継ぐケースがほとんど。大工育成が必要といわれても、何をすればいいのか分からないのが現状だ。
どうにかして受け入れる側の工務店に心構えを分かってほしい、「地域工務店経営者のための大工さん育成ガイドブック」は、そうした背景から生まれた。

「大工育成は昔に戻るのではなく、今の時代に即したことをやっていく必要がある」と首藤氏。その第一歩として、ガイドブックでは「大工さんの社員化」を掲げている。 今の若者たちは人生の選択肢をたくさん持っている。転職するチャンスもいくらでもあると思っている。入職したいと思わせ、新人大工として定着させるためには社員化が不可欠だ。
ガイドブックには、「他産業・業種と比べても見劣りしない雇用条件を整備し、提示することが重要」とある。そして社員化の目的を、「雇用・就労環境を整えて若者の入職意欲を高めること」と明記した。
首藤氏は、「まずは環境を整えて、若者たちが将来の希望を持ってやっていけるような会社の体制づくりをしないと、受け入れても意味がないという話をしていきたい」と述べた。
キャリアパス(目指すべき大工の姿)の明確化も重要になってくる。新人から20代半ばくらいまでの給与、現場管理や若手の指導を行うようになった時の待遇など、生涯にわたって安定した給与体系を整備し、実行していくことが求められる。
首藤氏は、「一般のサラリーマンよりも早めに昇給していくイメージがないと、職人としてつまらなく感じるのでは」とモデルケースを示す一方で、「考え方がいろいろあり、それぞれの方法でキャリアパスを作り上げていければいいと思う」と、各社の事情に柔軟に合わせることも大切とした。
「大工さんを大切にする環境づくり」の取組みも入職者の増加につながる。ガイドブックでは例として、「子どもたちとのものづくり教室」「お客様感謝祭」「高校生などの現場見学会・会社見学会」を挙げている。 「小学校の高学年くらいの時に経験したものが、結果的に職業につながっていることが圧倒的に多いらしい」と首藤氏。近所で新築工事をしていたり、家を増改築したり、家づくりのイベントに参加したり、何かしら大工との交流があり、それがきっかけになって建築の仕事を選んだ人は多い。 「今、仮囲いに覆われてブラックボックスの中で仕事をしているような私たち職人の世界を、一般の人に見てもらえる機会が必要と思う」と強調した。
ガイドブックでは、「求人申込票の記入と作成」についてもアドバイスを行っている。首藤氏は「求人票に社員教育に関することが書かれているかどうかが大きなポイントになる」と提起する。 高校生は、担任や就職指導担当の教員から就職先の情報を得ることが多い。また、親の承諾も会社選びの大きな要素になる。教育環境が整っていると教師は安心して生徒に勧められ、親にも説明しやすくなる。 工務店は、求人申込票の内容を意識し、大工育成・教育プログラムなど社内の体制づくりを進めること。また、賃金や手当てのほか、労働時間、保険と年金、休日も求職者がとくに気にする項目なので整備する必要がある。 例えば、手当は車両、燃料、住宅、資格など多いほどいい。労働時間や休日は、工期による場合は変形労働時間制とし、年末年始や夏季休暇を会社の制度として示す。雇用保険や健康保険、厚生年金などの社会保険の適用は、雇う工務店の責任として必須だ。 加えて、インターンシップの受け入れ、職業・企業説明会の参加や独自開催も若者の入職に効果的とする。

首藤氏は、「若手を教える指導大工にも必要な雇用条件を整えてほしい」と訴求する。指導大工も社員化する、あるいは指導するにあたって手当てを出すことなどが求められる。出来高払いだと、足手まといな若手につらく当たる傾向があるからだ。それでは、指導される側は仕事を続ける意欲を失ってしまう。 ここで経営者が考えなければならないのは、育成にかかる費用を現場予算(工事原価)ではなく、「会社の一般管理費にすること」と首藤氏。「会社を存続するための事務員と同じような予算の中で人を育てるということをしないと、成り立っていかない」と話す。 若手を指導する大工の心構えや指導方法についても、ガイドブックに記載している。 とくに指導方法は、これまでのような徒弟制度ではなく、「スポーツコーチングメソッド」を取り入れることを奨励。こうしなさいと教える「ティーチング」ではなく、若手が自分で覚えていくような導きを与える「コーチング」について解説している。 指導方法の身につけ方については、首藤氏自身が受けたことのあるTWI(監督者訓練)を踏まえた。アメリカで開発された企業内教育の一つで、都道府県職業能力開発協会などを中心に広く研修が行われている。 相手の技量や知識に合わせて導いていくステップが示され、首藤氏は「指導大工としての意識改革も必要」と話し、TWI研修を受講することも勧める。
首藤氏は大工の社員化と若手の育成を、身をもって実践してきた。代表取締役を務める丸三ホクシン建設には現在、社員大工が12人おり、そのうち10代が1人、20代は4人だ。 先輩大工たちが若手の扱いに慣れており、新人が入ってきたら何をやらせたらいいかというものがある程度できあがっているそうだ。新人を育てあげる指導大工が育っている。最初はなかなか思うようにならなかったというが、続けていくことで良い循環が生まれるという見本だ。 「経営者が目指すものは、10年後20年後の会社の姿」というのが首藤氏のスタンス。だから、大工の雇用について、即戦力を期待して1年2年で利益を上げていくことを考えるのではなく、「大工を育てるところから、しっかりと前向きに取り組んでほしい」と呼びかけている。 ガイドブックには、長年にわたって大工育成に携わってきた首藤氏の経験と思いが織り込まれている。多くの工務店経営者に活用してほしいが、部数が限られており、活用方法について丁寧に説明していきたいとする道ビルダーズ協会の方針がある。 そのため、配布は説明会の参加者に限定。7月に開催した第1回には約20人が参加した。第2回が12月に開かれる予定で、大工を育成したい工務店経営者を募っている。
参加申込締切10月31日

(一社)北海道ビルダーズ協会は、「大工さん育成ガイドブック説明会」を12月7日(木)に開催する。 ガイドブックの活用方法について同協会大工育成委員会委員長の首藤一弘氏が解説。また、「求人票」の記載方法について、トモニソリューションズ(札幌市)の担当者がアドバイスする。 場所は北海道建設会館中会議室9階(札幌市中央区北4条西3丁目1)。時間は午後2時から4時まで。定員は先着30人。参加は無料。なお最少興行人数に達しない場合は開催を中止することがある。 申し込みは、同協会ホームページから申込書をダウンロードし、必要事項を記入のうえFAXで送る。締め切りは10月31日(火)。 問い合わせ・申し込み先は同協会。 電話011(215)1112。FAX011(215)1113。