北海道の家づくりデータベース
旭川エリア版(上川・留萌・宗谷)
2026年(令和8年)4月7日(火曜日)

道は、民間住宅の目指す姿として北方型住宅の技術基準等を見直し、きた住まいるをプラットフォームにしながら新たに「北方型住宅2020」を提案し、新年度から運用を開始する。新基準はUA値が0.34W/㎡K以下、耐震等級2、一次エネルギー消費量等級など、国の住宅施策も踏まえた検討が最終段階に入っている。北海道住宅通信は、これらを踏まえ、「今後の北海道の住宅のあるべき姿」をテーマに、鈴木大隆・(地独)北海道立総合研究機構理事、菊澤里志・キクザワ社長、櫻井百子・アトリエmomo主宰、服部倫史・シー・アイ・エス計画研究所社長の4氏による座談会を開催。行政、建築、設計、都市居住それぞれの専門分野から今後の課題や取組みについて語ってもらった。(開催日=1月9日、司会=郡司孝志・北海道住宅通信社編集局長)
■地方独立行政法人北海道立総合研究機構 理事 鈴木大隆氏
■株式会社キクザワ 代表取締役 菊澤里志氏
■一級建築士事務所アトリエmomo 主宰 櫻井百子氏
■株式会社シー・アイ・エス計画研究所 代表取締役社長 服部倫史氏
司会 株式会社北海道住宅通信社 編集局長 郡司孝志

鈴木 大隆氏

菊澤 里志氏

櫻井 百子氏

服部 倫史氏
郡司 この座談会では、今後の北海道の住宅のあるべき姿をテーマに、4人の専門的な立場からお話しをいただきたいと思います。
鈴木 昨年5月、改正建築物省エネ法が公布され、一部は既に施行されました。私は長年、省エネ基準・関連制度の見直しなどに関わってきましたが、日本の多種多様な建築物の省エネ化は多くの課題があると感じてきました。国の住宅省エネ適合率の調査結果では、全国平均で未だ50~60%でした。これは適合義務化に踏み切るには難しい数値と言えます。
北総研が道内の工務店などの事業者を対象に実施した調査では、比較的適合率が高い札幌、旭川、帯広の3圏域と、それ以外の地域では大きな格差が生じていることもわかりました。地方のボトムアップをどのように図るかも重要な課題となるわけです。これは全国共通の課題でもあります。省エネ基準を緩和して適合率を高めるという形だけの変化では、現状は何も変わりません。まずは社会基盤を整え、意識を変える「ボトムアップ型」の展開。それが説明義務ということだったわけです。
一方で、北海道で再び新しい住宅の技術革新を提案することも大切です。きた住まいると従来の北方型住宅の推進だけでは物足りない部分が「北方型住宅2020」の提案のきっかけになっています。基準の最終形の議論はまだ残っていますが、いずれにせよ早々に世に公表し、事業者や道民の皆さんに関心を持っていただく、そして、全国に向けて北海道からイノベーションを起こしたいと考えています。
そして、北方型住宅2020をコアとしながら、さらに様々な地域性を盛り込んだ多様なブランド住宅を作り上げていくシステムも同時に展開できるよう、仕組みづくりを進めています。
菊澤 北方型住宅2020の普及に向け、今後住宅業界全体として必要なことは、まず、工務店の経営者及び技術者と技能者の意識改革だと感じています。施工棟数を増やそうとすると、予算の関係上、性能に関する部材などをカットせざるを得ないケースが生じます。そうならならいためには、私たちのような地域に密着した工務店が先頭に立って、住宅性能に対する普及啓発活動を行う必要があります。
大工職人など技能者は、断熱・気密施工の必要性や、結露が発生する仕組みを理解することが大切です。複雑な間取りや構造でも、それらを理解している職人が施工すれば精度は高くなります。その意味でも、職人の教育は必須です。
私が代表を務める工務店グループの会合でも常に言っていることですが、工務店の最大の使命は会社が存続することです。OB客に何かトラブルが起きたときに、頼る会社がないという状況は避けなければなりませんし、将来の事業継承や後継者育成についても、真剣に考えていかなければなりません。
北方型住宅2020の性能基準をクリアしている工務店は道内に多くありますが、全体の技術レベルのボトムアップのためには、施工方法やノウハウを後継者に徐々に移譲していかなくてはなりません。十分な技術力のある工務店が事業継承を行い、複数の世代にわたって地域活動を活発に行うことが重要になると考えています。
鈴木 岩手県の陸前高田市やヨーロッパで、地元の大工さんからよく聞くのは、「自分たちの仕事の7割以上は過去に建てた住宅のメンテナンスで、残り3割は後継者のために新築を建ててきた」ということです。人口が約2万5000人の町で、新築着工数が少なくても住宅業界が維持できていたのは、まさにそういう循環があったからでした。北欧やドイツでは、ほとんどの住宅事業者がリフォームとリノベーションで賄えています。新築重視の日本の建設業は、いずれリフォームを重視する業態に転換しなければならない時期が来ます。それが地域の住宅の守り手としての工務店の仕事になるでしょう。
菊澤 工務店はやはり町医者であるべきです。しかし、仕事の7割がリフォームとすると、粗利益率が新築と同程度では経営が成り立ちません。外壁だけ張り替えたいという人に、「外壁をすべて剥がして躯体の劣化状態をチェックし、断熱も入れ直しましょう」と提案しても、そこまで求められないことが多いです。
鈴木 どこかで、あと15年、20年住めればいいという住まい手の心理もありますね。
郡司 昨年、住宅に対する省エネ基準適合義務化の先送りが明らかになった際に、それまで必死に取り組んできた事業者は「ハシゴを外された」と落胆した一方で、安心した事業者もいました。道内の技術レベルを考えたとき、この現状をどう考えますか。
櫻井 道内だけ先に省エネ基準適合義務化を進めても良いと思っていましたが、皆さんの話を聞いて、北方型住宅2020は技術レベルの底上げを目的とした基準であると理解しました。工務店の皆さんにとって導入しやすい基準であれば、今後は取り組んでみようというきっかけになるのではないでしょうか。
郡司 櫻井さんは建築士の立場から見て、最近の顧客ニーズをどのように捉えていますか。
櫻井 設計事務所に依頼をするユーザーは明確な希望をもっています。最近はその希望も多様化し、ユーザー自身が「こんな暮らし方がしたい」といった独自の省エネ感覚を持っている方も増えてきました。ただ、その暮らし方であればどこまで断熱をするか等、それぞれに合わせた仕様の提案の方が建設費も抑えられ、希望する暮らし方にフィットできるのではと感じています。ひとつの基本仕様で計画するのではなく、きめ細やかな暮らし方を実現するためにそれぞれの住宅性能を決めるという考え方です。
私は、設計を進める中で、施主に対し、なぜペアガラスではなくトリプルガラスがいいのか、断熱性能を高めるとどのような温熱感覚を得られるかを説明します。見積り額が予算オーバーで、断熱に関わる金額を抑えた提案をしようとすると、逆に怒られるほど高断熱の重要性を理解してくださっている事に気づかされます。
服部 私からは主に中古住宅の再生事業についてお話しします。札幌市内では、ハウスメーカーが地下鉄駅近辺の70坪程度の中古住宅を仕入れても、建物を解体し、土地を二つに分割して販売するため、中古再生が難しくなっています。一方で、売却の際に、買い手に対し、今の敷地と住宅を残すという条件を付ける方もいます。現在の住宅は生活環境を含めて購入したので、その状態を維持してほしいという思いが強いようです。
菊澤 中古再生には不動産業界の意識改革も必要ではないでしょうか。
服部 中古住宅再生事業を手掛けていると、不動産会社と工務店では明らかにビジネスモデルの考え方が異なることが分かります。不動産業としては、約3ヵ月以内に資金回収したいところです。一方、工務店は、中古であっても、リフォームして、より良い住宅を提供したいという思いが強く、早くても6ヵ月、秋に仕入れると冬をまたいで翌年に売却するケースもあります。不動産会社は物件を引き渡した時点で契約が完了しますが、工務店は顧客に物件を渡してから、小さな修繕やリフォームを積み重ねることで長期的なビジネスにつなげます。
地域全体の信頼を高めるために、工務店同士の連携も進んでいます。大手ハウスメーカーが進出してきた際に、その地域の工務店が危機感を持って対応できることが重要です。連携して受注を取れるように地元の工務店同士が協業して行くことが理想の形だと思います。
鈴木 協業化の件ですが、陸前高田で地元工務店を束ねて住宅再建活動をしていますが、難しいのは流通・商流です。どこまでそこに踏み込むか、踏み込むべきか…難しいですよね。ところで、服部さんの取組みに関連して、札幌市内の住宅・宅地の狭小化を少しでもいい方向にもっていける可能性はありそうですか。
服部 さきほど話したように、地域に根差して近所と付き合いがある方が住宅を手放す際に、「土地を二分割するのであれば売らない」という人が出てきました。これは再生住宅を販売していくときの一つの指標になります。子育て世帯の若年層がマイホームを検討する場合、駅周辺で学校も近い地域を選ぶと、所得水準などからローンが組めず、新築戸建住宅の取得は難しくなります。そこで、再生住宅が選択肢に上がります。狭い敷地の新築住宅よりも、ある程度広い敷地を引き継いで再活用しようという動きが徐々に出てきました。
菊澤 狭小化の流れをみて思うのは「今さえ良ければ」ということ。狭小化は将来、災害が起きたときや街並みを考えたとき、住宅を詰め込んだ感じは否めず、50年後を考えると東京の下町状態になりかねません。土地を二つに割って売るというのは、それを買って住宅を建てる人のニーズではないと思います。2500万円の家を2戸建てた方が儲かると考えるのが業者目線。利便性が高い建築地が減少する中で、行政は線引きの見直しや造成地の開発基準を緩和してもいいのではないでしょうか。
鈴木 ここまで話してきてどうでしょう。私は良い建築物をつくることが、暮らしやすいまち、いい街並みに変えていくもっとも確実な方法だと思うのですが。
櫻井 私もそう思います。一昨年から道が進める南幌町のきた住まいるビレッジの事業に参加させていただいています。自分の普段の仕事は点でしかないのですが、街並みやコミュニティをつくる意識を持って関わると「面」になって見えてくるという期待感が当初からありました。菊澤さんや多くの関係者の皆さんと協力しながら取り組んだ結果、住宅が増加し、目に見えてビレッジが変わっていった風景をこの2年間で感じています。多少なりとも自分たちの努力が実ったのではないかと思っています。
菊澤 その通りです。ただ、私たちが最先端の住宅を手掛け、ひとつの街並みを形成したのに、そのワンブロック隣では大手ハウスメーカーが無個性な真四角の住宅を建てている。あれはショックでした。今後はユーザーの意識改革も必要になると思います。
服部 平成とともに歩んできた北方型住宅が築後30年を経過し、同じ時期に作られた性能を伴わない住宅との景観の違いを調査しました。北方型住宅団地として分譲された旭川ウッドタウンは街の良さを分かって住んでいる人たちが多く、中古で売買されたときに築10年でも買った時とほぼ同じ価格で売れました。地域環境を維持しようという意識が強い人たちのおかげです。
鈴木 住む人が変わっても、美しく住むという意識が高い人たちが集まったために街並みが長く持続しているのだと思います。
服部 若い住宅需要層は、20年後のライフスタイルが不透明なままマイホームを探しています。逆に旭川ウッドタウンに住む人たちは街そのものを気に入って長く暮らしています。住まいを手放す人がいても、新築時と同じ価格で売れるため、街並みを維持しようとするモチベーションも上がります。
鈴木 いわゆる「面」としての成功例ですね。一方で、菊澤さんは「点」として住宅を建てる側にいますが、過去に自らが建てた住宅を別の方へ転売するというビジネスはどうでしょうか。工務店にとって大きなリスクと負担があるかもしれませんが可能性はどうですか。
菊澤 以前、当社に買い取ってほしいというOB客がいました。買取りは難しいので、不動産業者を通して売れた際に、当社にリノベーション工事をさせてほしいと提案し、実際に工事を請け負いました。購入された方も喜んでいました。今後は不動産業者の意識も変えて、住宅の性能向上を図るリフォームを前提にしていきたいです。しかし、私たちがリノベーションを提案しても、ユーザーがそこまで求めていないことも多いのです。長く住むことになる若年層は、リノベーションとリフォームの違いを理解してほしいですね。行政の方々にはエンドユーザーへの教育や啓発を期待しています。意識の高いユーザーは勉強熱心ですが、反対に金額面を重視するユーザーもいます。まずは、お金が始まりではないということを理解してほしいと思います。
鈴木 国や業界団体が行う技術セミナーは専門家向けが多いですよね。今後は既存住宅をどう活用するかの本当の意味をシンポジウムなどで一般の人に広く伝えなければならないと思います。
服部 ユーザーにとって実例で示すことが一番分かりやすいのではないでしょうか。例えばリノベーションが金融機関のローンの優遇対象になっているケースでは、性能が低い工事にはお金を貸せないが、高いものには優遇ローンで融資ができると説明しています。銀行は性能を担保していませんが、ローンが差別化されることで工事レベルと内容の信頼性にもつながるのです。
鈴木 アメリカやカナダと同じ手法ですね。工務店のほかに、バックにいる金融機関がリノベーションに対して融資をしていることが工務店への信頼性の向上につながります。
菊澤 自動車業界は燃費で税金が変わります。昔はハイブリッド車の税金がゼロだったため売れていて、そこに業界全体が追随しました。住宅業界でもBELSを活用することで同じようなことができないでしょうか。
鈴木 まさに今、その部分の制度設計を始めようとしています。
服部 今は長期優良住宅の認定という枠組みしかないので、他の基準と比較できず、長期優良住宅のメリットがわからない状態です。
櫻井 低炭素建築物認定を取れば、長期優良住宅と同等の税制優遇を受けられます。長期優良住宅の場合は、認定を得るために構造計算を含めて30万円程度かかるので金額的にもデメリットが大きいですよね。
菊澤 当社は全棟で長期優良住宅認定を取得していますが本当に大変です。構造計算によって着工計画に遅れが生じ、年間予定を消化することができないこともあります。補助金を利用することも多いので、まさにそれに振り回されている状態です。
鈴木 既存住宅の質的改善を行う際に、関わっている全員が納得できる評価の枠組みや新しい仕組みが必要になります。道内は北方型住宅など質の高い住宅ストックが形成されてきたため、そこをエンジンにして新たな住み替えシステムをつくれるのではないかと感じています。
菊澤 当社は北方型住宅に長く取り組み、きた住まいるにも登録してきました。北方型住宅2020がスタートするのに際し、全棟を北方型住宅2020に登録しようと考えています。従来の北方型住宅に比べるとハードルは高いですが、これだけの性能を整えておけば10年後、20年後の住宅の価値は下がらないと思います。北方型住宅2020は、従来の北方型住宅と異なり、ユーザーから要望が出るものになってほしいです。
鈴木 2021年4月に控えた省エネ基準の説明義務化の詳細はこれから公開されていく予定です。何をどこまで説明し、どう誘導するか、コストやメリットを含め、説明の内容や仕方によっては施主の背中を押すこともできます。
菊澤 説明内容を複雑にすると理解できない工務店も出てくるでしょう。そうなると、絵に描いた餅になってしまう。最終的にしっかり機能してユーザー保護になるか疑問な部分もあります。工務店とユーザー双方が容易に理解できるものを求めたいです。
櫻井 設計が始まって着工までの間、施主に説明するタイミングも大事ですよね。設計が終了してから説明しても意味はないですから。
鈴木 最終的には確認申請の前に必ず説明が必要になります。しかし、契約の前など、前段階で何度か説明する必要もあるでしょう。どのタイミングで説明を行うのが一番いいのかなど、走りながら制度を成熟させていかなくてはならないでしょうね。
菊澤 省エネ基準に関する説明が義務であることを、いかにユーザーに告知するかがカギになりますね。
服部 説明を受けて理解することが結果的にユーザー自身を守ることになると誘導するのがいいのではないでしょうか。
鈴木 市民セミナーやシンポジウムなどで制度自体を啓発していく場がほしいですね。
櫻井 ユーザーに対し、性能、部材、メンテナンスに関する理解を深められる機会があると良いですね。建築相談に行くとほとんどの人から「ノーメンテナンスにしてください」と言われるのが本当に残念で、だから住宅がどこに行っても同じような箱型になってしまうとのではないかと思います。それをなくすために事前にみんなで勉強できる場が必要ではないかと感じています。
鈴木 平成が始まってから30年余が過ぎ、これまでの経験と知識を基に議論し、検討してきた北方型住宅2020をはじめとする一連の取り組みを活用しながら、変化する時間のなかで、新たなイノベーションと住文化の創造に一緒に取り組んでいきましょう。よろしくお願いします。