北海道の家づくりデータベース
札幌エリア版(石狩・空知・後志)
2026年(令和8年)5月24日(日曜日)

従来、本道の家づくりは雪や寒さといった冬の過酷な外部環境をどう排除するかが主題とされてきたが、住宅性能が向上し、冬暖かくて夏涼しい家が当たり前となった今、室内空間を外に向けて「どう開くか」が問われている。土地の特性を生かし、住まい手のさまざまな暮らし方に寄り添いながら、北海道らしく「外とつながる」家を模索する建築家の堀部太氏に話を聞いた。
今年11月に堀部氏が設計し、SANKEI(札幌市)が施工した戸建住宅が札幌市内に完成した。両者の協業はこれで3棟目となる。最初の1棟はSANKEIが建設する賃貸アパートのオーナーから自宅の設計を頼まれたことがきっかけだった。 SANKEIはファース工法を採用しているため、その時に「ファースの家」を初めて手掛けた。適温に調整し、調湿・清浄化した空気を住宅内に循環させるシステムで、堀部氏はエアコン一台で暖冷房できることに魅力を感じているという。 「ひと昔前までは暖かい家にできますかという依頼が多かったが、今は暖かいのは当たり前で、夏に涼しい家にできますかという方が増えてきた」と話し、施主が全館空調を希望する場合はSANKEIに施工を依頼している。 堀部氏は、ファースの家にデザイン的な工夫を施している。例えば、通常はガラリを用いる給気口をなるべく目立たなくするために、目透かし見切りの要領で壁の石膏ボードを天井や床から15㎝ほど空けて張り、その隙間にガラリに代わる給気口を設けた。 設計段階でいろいろ考えて提案しても、施工者の協力がなければ実現できない。「SANKEIさんは、こちらの提案や初めての納まりなども敬遠せず、こうしたらもっといいのではとさらに提案してもらえるので大変ありがたい」と信頼を置いている。

堀部氏は、胆振管内白老町で生まれ育ち、北海道工業大(現・北海道科学大)工学部建築学科を卒業。8年ほど札幌市内の設計事務所に勤めたのち、2016年に独立した。現在は設計業務の傍ら、母校である科学大の非常勤講師も務める。 設計のこだわりについて、冬暖かくて夏涼しいのは大前提で「北海道らしい外部とのつながりを意識して設計している」と語る。 かつて、北海道の住宅は寒さをどうしのぐかが主題だった。熱が逃げる外壁や開口部の面積をできるだけ小さくした、窓の小さい四角い家が並ぶ街並みはある意味北海道らしさともいえる。 堀部氏は在学中に京都を訪れた際、住宅につながる小路にも花が飾られ、家が外に開かれた風景を見て、改めて北海道との違いに気づかされた。さらに北総研(※)の研究で、住宅の南側に面する窓は、二重窓にすれば熱損失より日射による熱取得の方が多くなり暖房を助けるため、窓を大きく採った方がいいと知った時も衝撃を受けた。 「北海道の住宅は室内の暖気を内へ内へ閉じ込めるという概念だったのが、南側なら窓を大きく開けてもいいというのが新鮮だった」と堀部氏。以来、内と外をどうつなぐかが設計の主要なテーマになっている。 今年3月に完成した堀部氏の自宅兼事務所も1階をほぼガラス張りにした。丘の上に建ち、眼下に住宅街、野球場、遊歩道が段状になって見える。土地自体も段差があり、それを生かして設計したため、1階は高低差のある二つのフロアになっている。法面の一部は自然の形状を残し、コンクリートで覆って室内の意匠とした。窓を隔てて、外の法面と連続して見えるのが面白い。
これまで手掛けた中で、印象に残っているのは猿払村の住宅という。施主は漁師で、夏は漁に出て冬のまとまった休みを家で過ごす。そんな施主の要望は、「寒い季節、朝起きて周りの目を気にせず熱いコーヒーを楽しめるような中庭がほしい」だった。 だが、冬の北海道の中庭は雪で埋もれてしまう…そう考えた堀部氏は、中庭をガラスの勾配屋根で覆った温室のような空間を提案。上から十分な日射を取り込みつつ雨や雪をしのぎ、冬は室温と外気温のちょうど中間ぐらいの涼しさになる。施主が漁で不在の時期は夫人がそこで雑貨を販売し、地域の人が気軽に買い物やお茶を楽しむ。施主はこの提案をとても喜び、即採用となった。 「提案してよかった。要望を聞くことも大事だけど、もっといい方法があるなら臆さず提案していこうと勇気を持てるきっかけになった」と堀部氏は振り返る。
堀部氏がいつか建ててみたいのは、用途を決めない「森のような家」。木漏れ日が気持ちいい場所で読書をしたり、開けた場所で走り回ったり、日陰で寝転んだり、「森の中のように、そのとき心地良いと思う場所で思い思いに過ごせるのが理想」と話す。 そのためにはヒートショック対策をした上で、あえて家の中に少しの温度差を作るなど自然な温熱環境を作ることも考えている。外とつながる建築は、いつか自然と一体化するのかもしれない。
※(地独)北海道立総合研究機構 建築研究本部北方建築総合研究所