北海道の家づくりデータベース
札幌エリア版(石狩・空知・後志)
2026年(令和8年)5月24日(日曜日)

東日本大震災から10年。被災地の岩手、宮城両県ではこの3月末ですべての仮設住宅が解消される見通しだが、原発事故の避難区域が残る福島県ではなおも500棟以上の仮設住宅(県が借り上げた賃貸住宅など)が残り、復興の歩みがいまだ途上にあることを改めて認識させられる。
本道においては、18年9月6日に発生した胆振東部地震から2年半が経過。被害が大きかった厚真、むかわ、安平の3町では昨年11月までに災害救助法に基づく仮設住宅の入居期限が終了し、被災者の生活拠点は新設された災害公営住宅や、一般の公営住宅などに移っている。
振り返れば、この地震による全道の住宅被害件数は全壊が479棟、半壊1736棟、一部損壊は2万2741棟に達し、液状化による被害も多く見られた。近年、相次ぐ大地震の影響から、住宅の耐震性能に対する関心はかつてないほどに高まっている。
さらに胆振東部地震においては道内のほぼ全域で2日間におよぶブラックアウト(大規模停電)が発生し、交通や物流の障害により道民の生活に大きな影響が出た。もし同様の事態が真冬の厳寒期に起きていたら、被害は比較にならないほど拡大し、人的被害も甚大なものになっていたことは想像に難くない。
その教訓から、札幌市は19年に改定した市国土強靭化計画の重点方針の一つに大規模停電対策を盛り込み、新築戸建住宅における太陽光発電設備の設置率を引き上げる目標を定めている。
災害はいつどこで起きるかわからない。とくに1年の3分の1以上を雪に閉ざされて過ごす本道においては、冬の備えを抜きに防災を語ることはできない。平時に快適に暮らせるだけではなく、想定されるあらゆる事態に対応して家族の安全を守るために、北海道の住宅は今後どう在るべきか。
次に紹介する取組みを一例として、いま一度考える契機としたい。
藤城建設(札幌市)は、真冬にブラックアウトが起きても太陽光発電と蓄電システムで必要電力が確保できることを実証するため、2月1日から14日の2週間にわたり、札幌市東区中沼2条1丁目のモデルハウスで実験を行った。

実験に使用されたモデルハウス
実験に使用したのは、同社が昨年春に立ち上げた新ブランド「ノースランドプライド」のモデルハウス。UA値0.25W/㎡Kの高断熱仕様で、屋根に9.38kW、壁面に合計6.4kWの太陽光パネルを設置。再生可能エネルギーを加えた1次エネルギー消費量の削減率は118%で、ZEH基準に適合する。
蓄電池とEV(電気自動車)の「W蓄電システム」を備えている点も大きな特徴。蓄電池は5.6kWまで充電でき、5回路の100V電源を使用できる。同モデルハウスでは、停電時に最低限必要な備えとしてリビング回りの照明と冷蔵庫、WiFiルーターの充電用の電源などが使用できる。また、停電時に備えて蓄電量の40%を使わずに残しておくよう設定されている。
一方、EVから供給される電気は200V電源対応で暖房や給湯が使えるため、停電時にEVが満充電の状態で家にあれば生活に必要な電気はほぼまかなえる。1世帯の1日平均の電力使用量がおおむね11~13kW程度とすると、蓄電量が40kWのEVなら3~4日分、60kWなら5~6日分相当の電力使用量をカバーできる。

停電時もEVから電力を供給
実験は、胆振東部地震発生時と同様のブラックアウトが真冬に発生した場合を想定。積雪により屋根の太陽光発電がほぼ稼働していない状態で、壁面の太陽光パネルと蓄電システムによって、数日間の在宅避難が可能な電力を確保できるかを検証した。
初日の2月1日は朝から快晴で、午前7時ごろから発電が始まり、午前9時から午後2時の間は平均2kWほどの発電量で推移。ピーク時には3kW近い発電量を記録した。日中は暖かく、暖房も運転していなかったため、発電量のほぼすべてが蓄電に回り、午前11時ごろには5.6kWの蓄電池が満充電に。以降、午後3時ごろまでに4kW以上が売電に回った。1日の発電量は13.8kW。EVに蓄電した場合、1世帯の1日の電力使用量を充足するに十分な発電量となった。
実験を行った2週間で、1日平均約10kWの発電量が得られた。この結果について、モデルハウスの設計を担当した同社企画課の川内玄太リーダーは「屋根が完全に雪に覆われていても、壁面の太陽光パネルだけでこれだけの発電量があれば問題なく電気が使え、ブラックアウトに十分対応できることが証明できた」と総括した。
川内氏がとくに強調したのは、壁面パネルの太陽光発電が当初想定していた以上に高い発電効率を発揮した点。設置された壁面パネル6.4kWのうち、南面が2.56kWで、東面と西面がそれぞれ1.92kW。ピーク時には3kW近い発電量を記録しており、川内氏は「日が当たりやすい南面だけではなく、時間帯によっては直接日が当たらない東西面も一定量の発電をしていると考えられる」と分析する。
さらに「ここは敷地が広くて周囲に雪が積もっているので、雪に反射した光で発電しているのではないか」と推測。「北海道には壁面パネルの太陽光発電が適していると言える」と結論付けた。

災害に強い家は、災害時だけではなく日常でもメリットを発揮する。高い断熱性能と太陽光発電により、最も単価が高い日中の電気料金がゼロになり、さらに余剰分を蓄電することによって日没後に有効活用できる。日中にEVに蓄電することができれば、1日に使用する電気のほとんどをまかなうことができ、光熱費は限りなくゼロに近付く。
現状ではコスト面の課題が大きいとはいえ、道民にとって真冬のブラックアウトは生命を脅かす切実な問題だけに、同モデルハウスが示した実験結果は、将来的に目指すべき北海道の住宅の在り方について重要な示唆を与えるものだ。