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大工がいない! – 住宅業界 人手不足の現状と課題

大工がいない! – 住宅業界 人手不足の現状と課題

少子高齢化であらゆる業種の人手不足が進む中、住宅業界にとっても慢性的な職人不足が大きな悩みの種となっている。施工の効率化が進み、専門的な職人の仕事が減っていく一方で、地域の工務店の強みである顧客に寄り添った家づくりには人の手による施工が欠かせない。切っても切れない工務店と大工職人の関係の現状と今後について改めて考える。

平均賃金を下回る一般大工の収入

進む通年雇用化 人材確保に苦心する工務店

北海道住宅通信社が毎年道内の工務店を対象に行っているアンケートの結果を遡って見ると、10年前は受注戸数の伸び悩みや営業力不足を経営の課題に挙げる工務店が多かったが、2015年から20年までは6年連続で職人不足と高齢化が経営課題のトップに挙がっている。 21年はウッドショックに代表される資材高騰がトップだったが、職人不足も6割以上の工務店が課題に挙げている。

国勢調査によると、日本国内の大工職人の就業者数は1985年に81万人だったが、2015年には31万人と半数以下に減少。しかもそのうち約4割を60歳以上が占めている。
シンクタンクの野村総合研究所はこうした年齢分布を基に、2030年には大工職人が21万人まで減少すると予測している。新設住宅着工戸数も今後減少が予想されるが、大工職人の減少率の方が大きく、今後さらに人手不足は加速するものとみられる。

ではそれに対して道内の工務店はどのように対応しているか。前出の北海道住宅通信社のアンケートでは工務店の賃金と労務の状況についても毎年聞いている。
10年前と対比すると、回答社1社あたりの大工の平均雇用人数は2012年の平均8.1人から21年は6.2人に減少し、職人不足が進んでいる実態を浮き彫りにしている。

雇用形態については12~21年の10年間で通年雇用の割合が32%から58%となり、半数を超えた。賃金体系は主流である出来高制が36%から27%に、日給月給制が30%から23%にやや割合を減らしている一方、完全月給制は3%から8.5%と増え、他の賃金体系と併せて月給制を取り入れている工務店を含めると42.7%に及ぶ。

これらのデータは大工の社員化が進んでいることを示しており、現場の人手調達が難しく、できるだけ自社で人材を確保したい工務店の思惑がみてとれる。
賃金額をみると、12~21年の10年間で出来高制の1坪あたり平均単価は3万6051円から4万917円に4866円上昇。出来高以外の賃金体系では、棟梁クラスの1日当たり平均賃金が1万5165円から1万7341円に2176円上昇、一般大工は1万3260円から1万4877円に1617円上昇した。

全国建設労働組合総連合(全建総連)北海道が組合員を対象に毎年行っている調査によると、21年の大工1人あたりの平均就労日数は24.1日。これを基に年収に換算すると、棟梁クラスが501万5017円、一般大工は430万2428円となる。
厚生労働省の毎月勤労統計調査を基に算出した21年の道内の平均年収は365万2673円。ただし、平均就労日数は20日で、日額賃金に換算すると1万5278円となり、一般大工を上回る。

これらの傾向をみると、労働力の需給バランスから大工の平均賃金も上昇傾向にあるものの、他業種を含めた賃金上昇ペースと比較すると決して十分とはいえず、さらに休日の少なさも職場定着の障害となっていることがうかがえる。
とくに若い人材の確保は他業種との競争が厳しい中、少なくとも賃金で他業種を上回らなければ現場に必要な人手を確実に手配し続けることは難しくなっていく。しかし住宅業界はいま、木材をはじめあらゆる資材の高騰で利益率が圧迫されている状況で、経営体力が限界に近付いている工務店も少なくない。

今後考えられるのは、工務店が施工をアウトソーシング化していくケースだ。例えば道内プレカット大手の佐藤木材工業(北斗市)は道南エリアを中心に住宅の設計、プレカット、施工まで一括して請け負う住宅事業を展開しており、同社に設計・施工をすべて任せて営業に特化している住宅会社もあるという。
「施工しない工務店」というと矛盾かもしれないが、今後も大工不足が加速し、人材を集めることが今以上に困難になれば、現実的にそうしたケースが増えてくる可能性も否定できない。

人材を集める 辞めさせない

サラリーマン化する大工職人

丸三ホクシン建設(石狩市)は大工職人の担い手確保と継続的な育成のため、通年雇用の社員として社会保険に加入させ、賃金体系も一般的な会社員と同じように分かりやすい月給制にするなど、「職人のサラリーマン化」に取り組んでいる。

首藤一弘社長は自身も大工として15年以上の経験を積み、職業訓練校の講師も務めるなど、大工の育成をライフワークとしてきた。
「自分も昔は社会保険なんか知らなくて、給料は出来高払いが当たり前。それが大工だと考えていたが、自分はそれでよくても、結婚して家庭を持つと家族を守るために安定した雇用環境が必要。家族を安心させる仕組みがサラリーマン」と、大工の働き方改革の必要性を強調する。

■なんでもできる大工に

同社の現場で働く大工職人は現在、社員が14人、一人親方が2人、季節雇用が3人。ベテランの大工は社員に誘っても慣れ親しんだ働き方を選ぶこともあるが、新たに入ってくる若い職人は社員として雇用する。

賃金体系も社員大工は月給制。「出来高制や日給月給制など働いた分だけ収入が増える仕組みの方がやりがいがある」という考えも根強いが、同社はそうした声も反映するため、現場の予算が残った時に、その現場に入った大工に働いた時間数に応じて配当金を支払う仕組みも設けている。

そのほか、大工は工具を自分で所有するのが基本で、新人のうちは必要な工具をそろえるための費用負担が大きい。そのため同社には、必要な工具を会社の経費で購入して貸与する仕組みもある。

休日は変形労働時間制を取り入れ、繁忙期に仕事量が増えて休めない分はそれ以外の時期にあてられるように調整する。
「現場にはどうしても仕事量の偏りがある。現場が動いていない時に部材や造作の加工、家具製作をするなど、幅広く仕事を覚えることで仕事量を平準化できる」。
ハウスメーカーなどの下請の仕事は細分化、マニュアル化され、決められた範囲の作業を速く正確にこなす能力が要求されるが、同社の大工育成はそれと異なり、「家一棟を自分で建てられる大工」が目指す姿だ。

■育成機関の現状は

同社のように自社大工を育成する仕組みを設けている工務店のほか、大手では土屋ホーム(札幌市)が企業内認定大工職人養成学校「土屋アーキテクチュアカレッジ」を設け、自社の職人育成を図っている。

一方、いまや職人の世界をよく知る工務店経営者は少数派となりつつある。かつては大工職人が工務店を構えて元請として自ら仕事を集め、会社を拡大してきたが、今、そうした工務店の多くは、大学卒でゼネコンやハウスメーカー勤務を経験した二代目、三代目が経営を受け継いでいる。

昔から仕事を頼んでいる大工は全員60代で、どんどん引退していく。建材店や工具メーカーなどの紹介でなんとか人を集めているが、予定通りに集まらずに工期が遅れる。自社で大工を育成するノウハウもなく、社員で雇用してもすぐに辞めてしまう。

道が設置する職業能力開発施設、高等技術専門学院は、全道8校中、札幌、函館、旭川、帯広、北見、釧路の6校に木造建築大工の育成を行う建築技術科がある。主に高卒者を対象として2年間の職業訓練を行い、大工として就業するための基本的な技術を身に付ける。

同科の今年4月の入校者数は全道6校合わせて41人。在校生は77人。定員は充足しておらず、地域の工務店などから「もっと大工を育ててほしい」という声が寄せられるという。

■コンビニ以上の時給を

道が認可する民間の認定訓練校にも大工を育成する学科がある。かつては道内各地の訓練校に大工を目指す生徒がいたが、現在は生徒が集まらずに休校状態になっている所も多い。 木造建築科と型枠施工課がある札幌高等技術専門校には現在、中卒者の生徒6人が在籍しているが、すべて型枠大工を育成する型枠施工科で、木造建築科の生徒はゼロ。

同校の細坂一美理事長は「公共工事に携わるゼネコンの方が休みもあるし雇用環境が整っている。ハウスメーカーが下請に払う賃金では若い人は来ない」ときっぱり。
「せめて時給換算でコンビニの外国人店員並みの賃金を払うか、完全週休二日は無理でも祝日は休みにするなど、少しでも待遇を向上させなければ、いくら育成しても皆辞めてしまう」と育成側の立場から住宅業界の課題を指摘する。

新人大工たちの挑戦

見習い大工育成研修会がスタート

4月15日、札幌市の北海道職業能力開発促進センター(ポリテクセンター北海道)に5人の新人大工が集まった。同センターが(一社)北海道ビルダーズ協会の要望を受けて2017年から毎年実施している建築大工の育成プログラム「見習い大工育成研修会」が今年もスタートし、初日に開講式が行われた。

参加したのは武部建設(岩見沢市)、丸三ホクシン建設(石狩市)、キクザワ(恵庭市)、三五工務店(札幌市)、伊藤工務店(空知管内由仁町)に今年入社したばかりの18~21歳の若手社員大工たち。3年間、合計216時間の長期カリキュラムで幅広い施工技術の習得を目指す。

ビルダーズ協会の代表理事を務める武部建設の武部豊樹社長は「大工職人の技術はとても高度で習得に時間がかかるが、腕が上がったことが実感できると仕事が面白くなる。それまで辞めたくなることがあっても仲間と一緒に乗り越えて」と緊張気味の5人を激励した。

■道具のキレは仕事のキレ

初日の講習は大工の基本である道具の手入れから。講師を務めるのは大工歴45年、68歳のベテラン現役大工、橋本正治さん。真剣な表情でカンナの刃を研ぐ5人に順番に声を掛け、上達のための心得を伝えた。


職人の心得を伝える橋本さん(左)


手入れしたカンナを試す受講生

「今はほとんど現場で使うことはないが、大工なら使えるようにならないと。道具を大事にする気持ちがないと仕事を大事にできない」と、あえて昔ながらの手仕事を覚える必要性を強調。なかなかうまくいかない生徒には「まっすぐ研げと言ってすぐに研げるなら職人は必要ない。思い通りにならないのが面白いんだ」と笑ってみせた。

受講生5人中3人は道の職業能力開発施設である札幌高等技術専門学院(技専)の建築技術科で木造建築の技術を学んだ経験者。橋本さんの指導にきびきびと反応し、積極的な姿勢をみせていた。

三五工務店から参加した菅原北斗さんは「自分には職人の世界が合っていると思う。まだ会社に入ったばかりだが、優しくて口が悪い先輩ばかり。それも楽しい。どんな家にも対応できる技術を身に付けた棟梁になりたい」と話す。

技専の卒業生たちと対照的に、慣れない作業に苦心していた伊藤工務店の木村倫樹さんは「知らないことばかりで緊張した」と振り返りつつ、手入れを終えたカンナで実際に木材を削ってみて「刃の研ぎ具合で木の削れ具合が違うことを実感できたのはいい経験になった」と手応えを感じた様子だった。

■職人が育たない現場

この研修会がスタートして5年目。年々成長していく生徒たちを見守って来た講師の橋本さんは「伸びる伸びないは個人差が大きく、刃物研ぎを見ると大体見えてくる」と語る。指先の感覚に集中し、わずかな刃の変化を感じ取ろうとする生徒は上達が早いという。

自身が若手だったころは技術は見て覚えるもので、誰かから教わるものではなかった。だから育つまでに短くて3年、長くて5年以上かかることも珍しくなかった。「いまそんなやり方ではみんな辞めてしまう。一人ひとりよく見て、相手に合った教え方をしないと」と心掛けているが、「受け身で教わるばかりで自分で考えないと結局育たないし、向き不向きもある」と難しさもにじませる。

いまの大工には手刻みの仕事もなく、分業制で決められた範囲の作業をいかに効率よくこなすかが求められるが、効率化の弊害としてリフォームに対応できる大工が減ってきているという。

「リフォームは現場ごとに全然違ってマニュアルが通用しないから、いろいろ経験した大工じゃないと役に立たない。これからは既存改修が大事だという時に、できる大工がいないとどうなるのか」。

効率化された現場では、経験のある大工が若手と二人一組で作業していても、自分の作業にかかりきりで後輩を教えている時間はない。だからこそ、見習い大工育成研修会のような取組みは貴重で、数少ない芽を枯らさないように丁寧に育てていくことが未来の担い手確保につながる数少ない道となる。

1年生は年間90時間、6、7月には集中的に11回の研修で、部材の墨付けや加工、建て方、小屋組みなどの基本的な作業を学ぶ。より高度な技術や、給排水、電気、クロスなど専門工事まで幅広く学ぶ2年生、3年生の研修会も8月以降に実施される。

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